明日は早起きしなければいけないのに、気づいたら動画を見続けている。眠いはずなのに、SNSをなかなか閉じられない。「あと10分だけ」と思っていたら、いつの間にか1時間が過ぎている——。
そして翌朝、「なんで昨日、もっと早く寝なかったんだろう」と後悔する。
そんな経験、ありませんか?
実はこの行動には、研究の世界で名前がついています。「就寝先延ばし(Bedtime Procrastination)」と呼ばれるものです。
2026年に発表されたシステマティックレビュー・メタ分析では、この就寝先延ばしと心理的なストレスとの関連が、複数の研究をまとめて検証されています。
この記事では、その研究結果をもとに、「眠いのに寝ない」という行動の背景を考えてみたいと思います。
就寝先延ばしとは?
かんたんに言うと、「寝ようと思っているのに、寝るのを後回しにしてしまう現象」です。
誰でも一度くらいは経験があるかもしれませんが、研究では、この行動が睡眠不足や日中の疲労と関連することが指摘されています。
定義:「眠れる状況なのに、寝ない」行動
就寝先延ばしとは、外的な事情に妨げられているわけではないのに、自分が意図した時刻に就寝しないことを指します。
ポイントは、「眠れない」のとは少し違うことです。
仕事の締め切りや誰かの介護など、外的な理由で寝られないのではなく、「そろそろ寝よう」と思っているにもかかわらず、もう少しだけ起きている——そんな状態です。
この概念を最初に提示したのは、心理学者Kroeseらによる2014年の研究です(Kroese et al., 2014)。
177人を対象としたこの研究では、就寝先延ばしが自己調整の低さや、本人が感じる睡眠不足などと関連していました。
そして2026年には、これまでに行われた複数の研究をまとめたシステマティックレビュー・メタ分析が発表されています。
「報復性夜更かし」との関係
就寝先延ばしのうち、日中に十分取れなかった自分の時間を夜に取り戻そうとして、睡眠を後回しにするパターンは、「報復性夜更かし(Revenge Bedtime Procrastination)」と呼ばれることがあります。
たとえば、
「今日も自分のための時間がほとんどなかった」
「このまま寝たら、仕事をして一日が終わっただけになってしまう」
そんな気持ちから、眠いのに動画を見たり、ゲームをしたり、SNSを眺めたりして夜を長く使ってしまうケースです。
ただし、就寝先延ばしのすべてが「自分の時間を取り戻したい」という理由で起きるわけではありません。
「なんとなく動画を見続けていた」「やっていることを切り上げられなかった」といった先延ばしも含まれます。
夜更かしは「意志の弱さ」なのか?
就寝を先延ばししていると、
「自己管理ができていない」
「まただらだらしてしまった」
と、自分を責めたくなることがあります。
しかし近年の研究では、就寝先延ばしを単なる意志の弱さだけで説明するのではなく、ストレスや感情調整、自己調整の状態と関係する行動として捉える考え方が示されています。
2026年の研究でわかったこと
2026年に発表されたシステマティックレビュー・メタ分析(Azeem et al., 2026)では、18の研究、合計35,097人の大学生のデータを対象に、就寝先延ばしと心理的な不調との関連が検討されました。
その結果、就寝先延ばしは、
- 抑うつ症状
- 不安症状
- 心理的ストレス
のいずれとも正の関連を示しました。
なかでも、関連が最も強くみられたのはストレスでした。
つまり、就寝先延ばしをする傾向が強い人ほど、心理的なストレスなども高い傾向が、複数の研究をまとめた結果でも確認されたということです。
ただし、ここには注意点があります。
対象となったのは大学生であり、研究の多くは横断研究でした。また、中国で行われた研究が多く含まれていました。
そのため、この結果がそのまますべての年代・生活環境の人に当てはまるとは限りません。
また、「就寝先延ばしをするとストレスが増える」といった因果関係を、この研究だけから断定することもできません。
「ストレスが先? 夜更かしが先?」はまだ分からない
ここで気になるのが、
「夜更かしするからストレスが増えるのか」
それとも、
「ストレスがあるから夜更かししてしまうのか」
という問題です。
現時点では、どちらか一方向だけの因果関係だとは言えません。
今回のレビューに含まれる研究の多くは、ある時点での就寝先延ばしと心理状態との関連を調べた横断研究だからです。
一方で、少数ながら時間の経過を追った研究もあり、研究者らは双方向の悪循環が起きている可能性を指摘しています。
たとえば、
ストレスや心理的な負荷が高まる
↓
自己調整が難しくなり、夜に就寝を先延ばしする
↓
睡眠時間が不足する
↓
翌日の感情調整やストレスへの反応に影響する
↓
さらに夜の就寝先延ばしが起きやすくなる
といった循環です。
「夜更かしをする人は意志が弱い」と単純に考えるよりも、その人が置かれている心理状態や一日の過ごし方も含めて考える必要があるのかもしれません。
なぜ眠いのに寝ないのか
では、「眠いのに寝ない」という状態は、なぜ起こるのでしょうか。
今回のレビューで議論されている理論モデルなどをもとに、考えられる背景を見てみます。
① 昼間に自分のための時間が足りない
仕事・家事・育児などで一日の大半を使っていると、夜になって初めて「ようやく自分の時間になった」と感じることがあります。
そんなとき、
「今日という日を、何も自分の時間がないまま終わらせたくない」
という気持ちが、就寝を後ろにずらす理由になることがあります。
「今日も結局、自分のための時間が取れなかった」
「このまま寝たら、仕事をして終わった一日になってしまう」
そんな感覚から、少しでも自由な時間を取り戻そうとして夜を長く使ってしまう。
これは、いわゆる「報復性夜更かし」と呼ばれるパターンのひとつです。
② ストレスが高いと「目の前の楽しさ」を選びやすくなる可能性
十分な睡眠をとることは、明日の自分にとって大切です。
でも、そのメリットを実感できるのは「明日」です。
一方、動画、SNS、ゲームなどは、その場ですぐ楽しさや気晴らしを得られます。
今回のレビューで示されている理論モデルでは、ストレスなどで自己調整が難しくなった状態では、将来得られる睡眠のメリットよりも、その場ですぐ得られる楽しさや気晴らしを選びやすくなる可能性が考えられています。
「疲れているのになぜか動画を見続けてしまう」という行動も、単に睡眠を軽視しているからとは限らないのかもしれません。
③ 「眠気」と「就寝」は別のものだから
私たちは、「眠くなれば自然に寝る」と考えがちです。
でも実際には、
「眠いと感じること」
と、
「今やっていることをやめ、寝室へ行き、布団に入り、眠る準備をすること」
は別のプロセスです。
眠い
↓
でも、今見ている動画を止めるのが少し面倒
↓
もう一本だけ再生する
↓
気づいたら30分経っている
ということもあります。
「眠気」から「就寝行動」へ切り替わる間に、先延ばしが入り込む余地があるのです。
「眠ければ自然に寝るはず」というほど、就寝は自動的な行動ではないのかもしれません。
スマホだけが原因ではない
就寝前のスマートフォンは、夜更かしの「わかりやすい悪者」として扱われがちです。
ブルーライトと睡眠の関係については、こちらの記事でも紹介しています。
ただし、就寝先延ばしを「スマホだけの問題」と考えると、その背景を見落としてしまう可能性があります。
今回のレビューで議論されているのは、ストレスや感情調整、自己調整の状態が就寝先延ばしと関係している可能性です。
スマートフォンは、「手の届くところに、その場ですぐ楽しめるものがある」という意味で、就寝を先延ばしするきっかけのひとつにはなり得ます。
しかし、スマホを遠ざけるだけで、すべての就寝先延ばしが解決するとは限りません。
「なぜ夜になると、寝るよりもう少し起きていたくなるのか」
その背景にも目を向けてみる必要がありそうです。
夜の過ごし方を振り返ってみよう
以下は、就寝先延ばしを診断したり、判定したりするためのチェックリストではありません。
最近の自分の夜の過ごし方を振り返るためのポイントとして、見てみてください。
- 寝ようと思っていた時刻を過ぎても、別のことを続けることがある
- 寝る時間になっても、やっていることを切り上げにくい
- 「あと少しだけ」と思っているうちに、予定より寝る時間が遅くなる
- 翌朝になって「もっと早く寝ればよかった」と思うことがある
- 「自分のための時間が足りない」と感じ、夜を長く使いたくなることがある
- 眠いのに、動画・SNS・ゲームなどをなかなか終えられないことがある
何個当てはまったかで判断する必要はありません。
「自分はどんなときに寝るのを後回しにしやすいんだろう」と、行動のパターンに気づくきっかけとして使ってみてください。
就寝先延ばしを減らすために試せること
今回紹介したメタ分析は、以下の方法そのものについて「実行すれば就寝先延ばしが改善する」と効果を比較・検証した研究ではありません。
ここでは、研究で考えられている背景要因を踏まえて、日常生活で試しやすい工夫を紹介します。
「寝る時刻」ではなく「終了時刻」を決める
「23時に絶対寝る」と決めても、その時刻まで動画やSNSを見ていれば、突然眠るモードへ切り替えるのは難しいものです。
そこで、
「22時30分になったら動画を終える」
「この動画を見たら今日は終了する」
など、寝る時刻より先に『今やっていることを終える条件』を決めておく方法があります。
スマホを完全に禁止するのではなく、まずは「終了時刻」や「あと何本まで」といった条件を作ってみるのもひとつの方法です。
自分の時間を少し前倒しする
「自分のための時間は夜だけ」という状態になっているなら、その時間を少し前へ移せないか考えてみる方法もあります。
たとえば帰宅後の30分だけは、
「家事をする時間」ではなく、
「今日は好きなことをする時間」
と最初から決めてしまう。
夜になってから「今日は何も自分のことをしていない」と感じる状態を少し減らせれば、寝る前に時間を取り戻そうとする気持ちにも変化が出るかもしれません。
スマホを「やめやすい環境」にする
スマホだけが就寝先延ばしの原因ではありません。
それでも、ベッドの中で触っていると「あと1本」「あと少し」が続きやすい人なら、環境を変える意味はあります。
たとえば、
- 充電場所をベッドから離す
- 寝室に持ち込まない
- SNSや動画を見る終了時刻を設定する
など、「意志の力でやめる」以外の方法を用意してみるのもよいでしょう。
睡眠リズムのズレにも目を向ける
就寝時刻が日によって大きく変わると、平日と休日で睡眠リズムにもズレが生じやすくなります。
自分の生活リズムを見直したい方は、社会的時差ぼけの記事も参考にしてみてください。
また、「十分寝ているはずなのに疲れが取れない」と感じている方は、睡眠時間だけでなく「眠って回復できたと感じるか」という視点もあります。
詳しくは、8時間寝たのに疲れるのはなぜ? 睡眠時間より大切な「回復感」とはで紹介しています。
まとめ|「なぜ寝たくないのか」を観察してみる
- 寝ようと思っているのに就寝を後回しにする行動は「就寝先延ばし」と呼ばれている
- 2014年の研究で概念が提示され、その後さまざまな研究が行われている
- 2026年のメタ分析では、18研究・35,097人の大学生のデータがまとめられ、就寝先延ばしと抑うつ・不安・ストレスとの関連が確認された
- ただし研究の多くは横断研究であり、原因と結果を一方向に断定することはできない
- 心理的な負荷が就寝先延ばしにつながり、睡眠不足がさらに心理状態へ影響するという、双方向の悪循環が起きる可能性も考えられている
- スマホはきっかけのひとつになり得るが、「スマホだけが原因」とは限らない
- 自分がどんなときに寝るのを後回しにするのか、まず行動パターンを振り返ってみることが改善のヒントになるかもしれない
「今日も夜更かししてしまった」と自分を責める前に、
「今日は何が、自分を寝室から遠ざけていたんだろう」
と少し考えてみる。
そこから、夜の過ごし方を変えるヒントが見つかるかもしれません。
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参考文献
- Azeem, O., Sulaiman, F., & Haidong, Z. (2026). Bedtime procrastination and psychological distress in university students: A systematic review and meta-analysis of their association. Frontiers in Psychology, 17, 1767938. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1767938
- Kroese, F. M., De Ridder, D. T. D., Evers, C., & Adriaanse, M. A. (2014). Bedtime procrastination: Introducing a new area of procrastination. Frontiers in Psychology, 5, 611. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2014.00611
